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2013年8月

2013/08/01

今西先生の山 (1)


 ここに1984年2月刊行、ちくま第155号がある。表題は 『今西錦司氏に聞く 「自然学」まで ききて・寺本 英』 小冊子である。今西先生82歳、寺本英先生59歳のときである。寺本先生が小気味よい聞き手にまわられている。長くなるが、その導入部を引用してみたい。


  種社会の発見
寺本 先生は晩酌はやっとらんのですか。
今西 やっとる。おれ、酒続けてんね。だけど燗つけるのがもうじゃまくそうなってね。九州からもろた焼酎、焼酎やったら湯で割るだけやからな。
寺本 そうですか。うちの学生に「今西先生に何か聞きたいことがあったら聞いてきてやる」といったら、「ほんまに昔、三升飲んではったですか」というてました。
今西 それはデマです。
寺本 九州のほうで、「三升先生」いうて。
今西 それは山での話やな。二十代ころな。三升は飲めんけど、皆と一緒に三本ぐらいあけたことはあるやろけどな。①
寺本 山へのぼる前はあかんでしょ。おりてからですか。
今西 若いときはこたえなんだんやな。いまはもうちょっとこたえる。
 おれは眼が悪いようになってからね……、右の眼はほとんど失明してんねん。のぼりは斜面に近いやろ。眼に近いからのぼりはシャッシャッのぼってんねや。くだりのときはもうおじけづいたら一歩も歩けへんようになるな。それを酒の勢いでね(笑)、グーッとおりるねん。そのとき酒を頼りにする。
寺本 まずぼくが一番聞きたかったのは、今西先生の自然観なるものが形成される過程や。いろんなものを読んでもその辺があんまり書いてないんで。
今西 それは難しいな。
寺本 難しく考えないで、大体山のぼりから始まっとる……。
今西 うん、うん、山のぼりや。
寺本 その山登りはいつごろからやらはったんですか。
今西 それはなあ、おれにとって山は何であるかちゅうことをね、一ぺんもっとじっくり考えてやらないかんなあ。
寺本 中学校の頃ですか。
今西 山へのぼるのは中学校の三年四年ごろからですけどなあ。
寺本 どこやった、一中ですか。
今西 一中や。当時は家が建ち込んでへなんだ。例えばおれのいま住んでいる下賀茂あたりは全部田んぼですよ。やぶを切り開いて植物園をつくりよったんや。つくってるときをおれ知ってるわ。中学1年のときですわ。② だからおれの家と自然とがずーっと続いてたんやな。
 最初は補虫網持って、チョウチョウやら、そんなもんばっかり追いかけていた。それで昆虫へゆくわけや。
寺本 生態学的なところから入られはったんですか。
今西 そやけどなあ、やめるときはまたものすごくあっさりやめてん、昆虫を。
寺本 その辺がようわからん。
今西 昆虫ではな、情がうつらんちゅうてな。


  …… 先ずはこの辺で一区切り

① 私の酒好きは有名で、上高地の山案内人の間では”三升さん”と呼ばれていたが、三升はちょっと飲めるものではない。いいところ、一升を二人で指しで飲む程度だろう。西堀君はあまり飲まない。もっぱら介護役であり、彼がいるかぎり私も安心して飲んだものである。「私の履歴書」より
② 1915年(大4)


 先生は1915年4月京都府立第一中学校入学、5月2日の遠足で愛宕山(924m)へのぼる。今西錦司生涯の国内登山1552山の第1番目にあげられた山である。そして1552山目の山は、1987年12月その年の納めの山、高丸山(366m)であった。
 山の数を数える時、中学生の頃の山城三十山がすべてその中にふくまれるように、標高400m以上の山という資格を付けた。1987年400m以下の山が2山登頂数に加えられたので、1982年のもう1つの山も登頂数に加えられた3山、最後の高丸山をふくんだ登頂数が生涯1552山になった。
 ここで山の数をあげたのは、数にこだわったわけではない。いまの時代だったら交通機関をフルに使えば、その種のマニアだったら数は獲得できるかもしれない。何を言いたいのかというと、この1552山は先生の言われる、いちじるしい主観性のはいった山なのである。
 最初の愛宕山は愛宕詣で祖父に連れられて登っていた。だがこれとそれとは気持ちが違うだろう。学校の遠足なのだから、自身で山を選んだのではないだろうが、この遠足は今西少年の将来を決定するような、そして体に自信のついた楽しい山だったようだ。
 翌年は富士登山に参加している。はじめはアルプス登山にする予定だったのを富士登山に変更している。富士登山に変えたわけがあったのだろうか。なんにしても自分で富士をえらんだのだ。ここから今西先生の主観性の強い山、1552山が徐々に選ばれてゆく。 
 15歳の時、「私はまず父の羈絆(きはん)を脱して私の力で比叡山に登った。」



 
  http://gakujsha.com  


  「今西先生の山」 








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